2021/07/01
第2号 帰省したいけど…
帰省するか、否か。新型コロナの流行が始まって以来、離れて暮らす親がいる人の多くが抱える問題だ。盆休み前などは、さらに切実な悩みとなるだろう。
今年の大型連休の際は昨年の同時期と比べて帰省する人が増えたと報道された。ネットのコメント欄には「高齢の親に会いに帰る帰省は、不要不急ではない」という趣旨の書き込みも少なくなかった。一方で、感染リスクから帰省に踏み切れない人もたくさんいる。
▽うがいの飛沫
私自身も親元を離れて暮らしている。80代の父と70代の母は、新幹線と普通電車で計3時間半ほどかかる町にいる。昨年夏、感染状況が比較的落ち着いていたタイミングで1度だけ会いに帰った。
実家近くにホテルを取り、短時間、顔を見に行く計画だった。「ただいま」「おかえり」。マスク越し、遠目ながら元気な様子を確認。少しほっとして、洗面所で手を洗い、うがいをした。
うがい後、鏡の前の見えにくいところに歯ブラシが置いてあるのに気づき、血の気が引いた。「私が無症状感染者だったら、今のうがいの飛沫はヤバかったのでは」。
歯ブラシ、シンク、蛇口を必死に洗浄。着くなり洗面所にこもっている私を心配した母が「だいじょうぶね?」と来てくれるも、至近距離を恐れる私は「来んといて!」と絶叫。
その後なぜか頭が痛くなり(緊張していたのだろう)、会話らしい会話もないまま、実家を後にした。宿にチェックイン後、父に「ホテルに着いたよ」「窓から熊本城が見える」などとLINEし、ようやく穏やかな気持ちに。結局、洗面所の掃除がメインの帰省となってしまった。そして今年は、感染力が上がった変異株の流行により、いまだ帰れずにいる。
▽「最後の正月かも」
昨年からの帰省事情について、同世代の友人たちにも聞いてみた。私同様、「日帰り」の場合もあれば、「(自分の)家近くのホテルを予約し、親に来てもらった。こちらはマスク、両親はフェイスシールドで2メートル離れて座り、10分間だけ話をした」という人も。
一人暮らしの母親がいる女性は「このままずっと会わないと、母の神経が参ってしまう」と不安が募り、夏休み、正月も感染対策をしながら実家に泊まった。感染も心配ではあったが「今年が一緒に迎える最後の正月になるかもしれない。後悔したくない」との思いが勝ったという。
▽顔を見て話す
「外出自粛が始まったばかりの昨年と現在とでは、帰省について考え方が変わるのは自然」。髙井逸史(たかい・いつし)大阪経済大学教授(リハビリテーション科学)は、そう指摘する。
同教授の調査によると、コロナの影響で社会との交流を制限した高齢者は、転倒恐怖や物忘れが著しく増大したという。家族と会えない孤独から、フレイル(虚弱化)や認知症に陥るリスクも懸念される。
離れて暮らす高齢者との接触方法の中で、髙井教授は、「顔を見て話す」重要性を強調する。「LINEやZoomなどを利用し、画面越しに視線を合わせて会話するのが理想的。表情を見て話すと認知機能が刺激される」。通信環境が整わなければ電話でも良いとし、「毎日大体決まった時間に連絡を取り合うと、日々の張り合いにつながり、なお良いでしょう」と提案する。「オンラインで会えなければ、安全な交通手段を選び、庭先まで会いに行くのも1つの選択肢。最大限の工夫をして、家族との時間を大切にしてほしい」と言葉に力を込める。
ワクチン接種や治療薬の開発によって、安心して帰省できる日常が一日も早く取り戻せるよう願うばかりだ。
(文・青木理子)