2023/04/03
第9号 防災は散歩から
神戸のポートタワーが部分的に見えるマンションに住んでいる。家を探していた際、海を身近に感じられる雰囲気に魅了され、入居を決めた。後から分かったことだが、マンションが建つ地は海抜が低く、神戸市のハザードマップでは、2020年度まで津波の浸水想定区域に入っていた(防潮堤の整備が進みつつあり、現在は浸水エリアにはなっていない)。
なので「防災」と聞くとまず「地震+津波」が思い浮かぶ。大きな地震が起こり、いったん収まったとする。その後、非常階段を使って外に出る。坂道を徒歩で上り、指定避難場所に向かう。どれくらいの荷物だったら持っていけるか。津波の影響を受けずに高台まで逃げられるだろうか―。毎回同じ想像をするが、細かい点までイメージできず、結局、非常用リュックは懐中電灯など最低限のものを入れて放置したままだ。
そんな私の“防災観”を一新する出会いがあった。大阪市東淀川区で防災士として活動している田原佳織さん。先日開催された防災イベントにアドバイザーとして参加していた田原さんは、「これ、昭和のパワポです」と言って、昔の夏休みの自由研究みたいな大きな模造紙を広げて自己紹介してくれた。
「パワポ」などによると、田原さんの息子さんは生後45日で障がいがあることが判明、中学から同区内の支援学校へ。入学後、学校の防災対策が不十分と感じた田原さんはPTA役員に立候補、3年間会長を務めた。PTA活動の一環として防災対策を進め、「支援学校の生徒に役立つ防災措置は、地域の高齢者や子どもにも役立つ」との考えに至り、防災士の資格を取得。東淀川区や学校、地元の親子グループなどと連携して活躍している。
田原さん流の防災活動の柱は、自転車や徒歩で地域のあちこちを回ること。「もともと地図を見たり散策するのが好きだった」のを生かしてフィールドワークを行い、地元の危険ポイントを可視化した地図を作成した。「『ブラタモリ』ならぬ『ブラタハラ』なんですよ」と笑顔で語る田原さんに「楽しみながらできる防災」をいくつか紹介してもらった。
田原です。防災散歩「ブラタハラ」や「誰にも任命されていませんが勝手に河川モニター隊が行く」などをやっています。今日から気軽に取り組める災害準備を提案したいと思います。
① 防災散歩
おすすめポイントは、実際に歩いて住んでいる地域を隅々まで知ることによって、どこに避難したら良いのか、どこにAEDや公衆電話、避難所、帰宅支援ステーションがあるか把握できることです。また、ブロック塀やブルーシートが掛かったままの修繕していない屋根、狭い道路、空家など危険ポイントも発見できます。
そして防災の観点からだけでなく、その場所の地理歴史に触れ、民話や伝承などにも興味を持つことで、より自分の町を深く理解でき、好きになれるかもしれません。
② 子どもたちに向けて
自分の命を守れる力を育てたいと思っています。「津波てんでんこ」(津波が来たら、できるだけ早く各自で高台に逃げろという言い伝え)など、先人たちの経験に基づく教えも積極的に伝えたいです。
子どもがいる家庭では、親子でいっしょに非常持ち出し袋を作ってみてはどうでしょう。一般的に入れた方が良いとされている中身だけでなく、各家庭で何が必要か親子で意見を出し合ってください。袋を作ったら実際にそれを背負って歩けるか確認が必要です。
小さいお子さんの場合、自分の名前や住所、保護者の携帯電話番号、アレルギーの有無などについても言えるかチェックしましょう。言えないようだったらそれら必要情報をまとめた「サポートペーパー」を作り、できるだけ身につけておくようにしたいものです。
③ 車の活用
災害時、渋滞が予想される道路は車での避難は避けるべきですが、マイカーを持っている家庭では、車中に防災グッズを備えておくのも良い方法です。非常持ち出し袋、スマホ充電用のケーブル、いざという時に窓ガラスを割って脱出できる道具などいろいろ積めます。車は発電機代わりになるので、ガソリンがなくなりかけてから補充するのではなく、半分になったら給油すると決めておくのも良いでしょう。
④ 備蓄の「見える化」
時々は家にある乾物(米、餅、パスタ、春雨、切り干し大根、ひじき、わかめ、高野豆腐など)を確認してみましょう。意外と備蓄がいろいろあることに気付いて驚くかもしれません。備蓄の「見える化」をしていると、いざという時に慌てずに済みます。家にある食材だけで1週間分家族の献立を考えて作ってみるのもおすすめです。最初は冷蔵庫の中身から消費して、保存食品を使い切るまで知恵を絞ってみてください。「予行演習」は、災害時にきっと役立つはずです。
⑤ その他
「子ども」の項目でも触れましたが、非常持ち出し袋は高価な既製品ではなく、何がどれくらい必要かよく考えて、オリジナルで準備した方が良いです。中身は100均などを利用して揃えてみても。自分にとって何が必要かよく考え、取捨選択する機会を持つことが重要です。すべては入りきらないので。
自宅が無事なら自宅を避難所として過ごすケースも考えられます。その想定で、断水時のトイレの備えなどもしておきましょう。
何よりふだんの生活をより良くしようと心掛けることがおのずと適切な防災につながると感じています。気負わずに日常の中で少しずつ防災の工夫を重ねていってもらえたらと思います。
まずは防災散歩から始めてみたい。
(文・青木理子)