生協知っトクコラム

2023/01/10

第8号 反抗期 量販店の距離感で

 子どもが大きくなると、家の中が狭くなる。中学生と高校生がいるわが家では、棚からモノがはみ出し、常に床に何かが散乱している。ごくたまに断捨離に着手するが、どうしても捨てられない段ボール箱がある。
 それは、娘たちが幼い頃の作品群だ。マルがいくつか並ぶ絵の下に「1歳0カ月 アンパンマン」と書かれた画用紙、大小の人らしき図形に「2歳 ママとわたし」と添え書きされたメモ帳の切れ端…見つけるたびに涙腺を刺激され、元の場所に箱を戻さざるを得ない。
 小学校中学年くらいまでは休みの日になると家族で出掛けていたが、最近は、それもすっかりなくなった。娘たちを誘っても「行きたくない」「友達と行く」などと即、断られる。たまにどうしてもいっしょに外出しなければいけない場合も、長女はできるだけ私から離れて歩こうとする。先日は、梅田の地下街で見失った。

 同年齢の子を持つ母友たちからも「基本的に子どもからいつも無視されている」「必要に迫られて一緒に電車に乗っても、子どもは違う車両に移動する」「3者面談。どうしても別々に行きたがるので、走って行って校門で待ち伏せするしかない」など、切なさ溢れる近況を聞く。「ママの姿が一瞬見えないだけで泣いていたあの子が?」と驚くが、密接に関わり合った親子関係の時期はいつの間にか遠くなり、子が巣立ちの準備を始めたことを実感する。
 西日本新聞のアンケート(2019年)によると、反抗期の始まりは小学生からが約58%、中学生からが約31%という結果だった。高校生から、というケースは約3%とぐんと減る。ただしこれはスタート時期の話で、反抗期がどれくらい続くかとは無関係だ。「反抗期は小5から高2の現在まで継続している」という持久力(?)のあるお子さんの例も聞く。

 母たちが嘆く一方で、子どもたちはどのような気持ちで親との関わりを捉えているのだろう。次女を通じて、中学生18人に聞いてみた。
 まず、いつ頃から親に不満を感じていたか。「小5以前…5人」「小6…9人」「中1…3人」と、小6が一番多かった。不満を抱きながらも、実際に親とどのように接しているかというと(父母それぞれについて回答)、「楽しく会話している」(父母ともに…6人)(父と…7人)(母と…2人)、「不満はあるが話している」(父母ともに…2人)(母…3人)、「口を利かない」(父…2人)(母…1人)という結果に。普通に明るく話していても、内心は異なる場合が多いようだ。
 親子関係がうまくいかない場合、「どちらに問題があると思うか」に対しては、「親…4人」「子…2人」「両方…6人」「どちらでもない…2人」との回答。「両方」が最多で、親だけに問題があると答えた4人を上回った。中学生ながら冷静に捉えていることが分かる。
 具体的な不満点は、母に対しての場合、多い順で①スマホ・ゲームの使い方(5人)①勉強、成績について要求が過大(同)③性格、言動(4人)④プライベートに干渉してくる(3人)④事情や要望を聞いてくれない(同)④人生設計を縛ろうとする(同)④センスや趣味が合わない(同)という結果だった。
 やはり、スマホ、ゲーム機の使い方と勉強は、親子が最もぶつかりやすい問題のようだ。親の言動や価値観に対して子どもが反発している様子もうかがわれ、子どもが親に服従する存在でなくなっている状態や親を評価するまなざしが生まれている点も見逃せない。
 一方で、親元を離れたいかとの質問には、「どちらでも良い」(7人)が最多。「離れたい」(4人)、「離れたいが許されない」(3人)、「離れたくない」(2人)と続いた。不満はあるものの、中学生の段階では、家を出て行く選択に必ずしも直結していないようだ。
 そのほか「父は100%しか許さない性格で、少しでも気にくわないと怒られる」「自分の都合でイライラして私や弟、母に当たるのを(父に)やめてほしい」などの切実な声も寄せられた。

 神戸市の公立中学校で約30年間にわたり、生徒指導や保護者相談に携わった経験のある元校長は、「どんなに反抗的な態度を取る子でも、子どもはいつも親を意識し、できれば親の期待に応えたいと思っている。親が心の中で『こうしてほしい』と考えている願望を敏感に察知し、逃げ場がないと感じるケースも少なくない。幼い頃と同じように接すると、子どもを追い詰め、苦しめてしまうことにつながる」と話す。子がある程度成長すると、ほどよい距離感のバランスは、むしろ子ども側の方からが見えやすいのかもしれない。
 さらに元校長は、「子ども自身の将来への展望、そしてコロナ禍や戦争などの社会的不安が、親が想像する以上に彼、彼女らに重くのしかかっている」と指摘する。親を遠ざけようとする態度の背景には、「親の後ろに広がる世界とこれからどう対峙していけば良いのかという恐れが含まれている」とみる。

 わが家の子どもたちが幼かった頃は、おもちゃや洋服を買うのも、友達と遊ぶのも、ほぼ親が主導していたように思う。そして、子どもたちはそれを受け入れ、楽しんでいるようだった。だが中高生となった今は、自分なりに広い世界と向き合いはじめている。
 思春期の子を持つ親は、身近な人生の先輩として、聞かれた時にアドバイスする―­そう、たとえて言えば、量販店のスタッフのような距離感で―­くらいの姿勢がちょうど良いのかもしれない。親は子の成長に応じて、子どもに直接注いでいた関心やエネルギーを、運動や労働、趣味などに振り向けていくのが健全なのだろう。
 ひたすらかわいかった宝物のような幼少期と同様、反抗期もいつか、ほろ苦くも大切な思い出として振り返る日が来るに違いない。

(文・青木理子)

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