生協知っトク情報

2026/01/06

第20号 地域で続く「新しい部活」
“引退しない”スポーツ文化につながるか

 「〇〇ちゃん、入りたい部活が学校にないから、放課後、電車で別な学校に行くみたい」。長女が中学生だった数年前、そういう話をよく聞いた。うちの場合はたまたま通う学校で部活ができたが、最近では違う学校に行くというシステムを超え、部活動を地域へ移す取り組み「部活動の地域展開(移行)」が全国で進んでいる。背景には、教員の働き方改革のほか、人口減少で1つの学校ではチームが組めないケースなどさまざまな状況がある。そして単なる「外部化」ではなく、これからの日本のスポーツ文化そのものを転換する可能性を秘めた問題でもある。同問題にくわしい田島良輝・大阪経済大学人間科学部教授(スポーツマネジメント)に現状や今後の課題などについて教えていただいた。

―部活動を地域へ移すメリットはどのような点でしょうか。

田島教授 少子化の影響で、1つの学校で1つのチームを結成することが難しくなってきています。地域単位で活動の場ができることで、中学生が「やりたいスポーツ」を継続できる環境づくりにつながります。長野県佐久市の中学校では令和4年、学校で選べる部活が7種目、部活加入率が72%でしたが、部活動の地域展開が進んだ令和7年には12種目、加入率90%に。全体人数は80人から66人に減った中での数字で、少子化の中でも地域のスポーツ環境を維持あるいは向上させ、加入率向上にもつながった1つの例です。
 また、これまで学校の部活動では、1つのチームに入ればほかの活動はできなかったり、入りたい部が学校になくてできないという制約もありましたが、地域展開を上手に活用したら、複数種目に参加できる可能性も出てきました。平日は野球部、休日は陸上部ということもできそうです。茨城県神栖市では、市が設置した「地域倶楽部統括管理団体」が、直営する地域クラブ活動と地域の団体や民間事業者のプログラムを認証し、ハイブリッド型の「自主運営型地域倶楽部活動」を提供しています。学校にない種目に触れる機会を週末に持つことができたり、習熟度などに応じてクラブを選択できる側面もあり、中学生の多様なスポーツニーズに対応する新たな仕組みとして期待できると感じました。

―地域展開の現場で、生徒の反応は。

田島教授 休日だけ地域で活動しているところの中学生は「平日は人数が少なくて限られた練習しかないが、土日はたくさんの人がいて、練習内容も充実しているから楽しい」と話していました。また、「参加が義務づけられているわけではない休日に練習しに来る生徒たちからは、『やりたいから来ている』という熱意が感じられる」との感想を持つ指導者もいました。これまでは「やらされる」感がありましたが、地域展開によって生徒の主体性が生まれるのであれば非常に喜ばしいことと思います。

―部活が学校単位でなくなると、試合で勝てなくなるのではと心配をする保護者もいるようです。

田島教授 地域展開の考え方として、「もっとやりたい、うまくなりたい」という生徒を否定しているわけではありません。競技スポーツも生涯スポーツもすべて学校が担ってきたシステムを地域全体で新たなシステムをつくることでサステナブルにしていきましょうという流れであると私は理解しています。そういった意味で、地域の中学生世代のスポーツ環境をどうしていくべきか示すことが重要で、その方向性をまとめていく自治体の役割は大きいと考えています。

―教員の負担についてはいかがでしょう。

田島教授 「教員の時間外在校時間のうち、部活指導の時間が週平均11時間30分短縮」(福井県大野市)「地域スポーツ活動に移行して、業務負担が軽減」(長崎県長与町)「負担が軽減63.6%、どちらかといえば軽減36.4%」(茨城県神栖市)など、一定の効果が出ていることが分かっています。先生の生活にゆとりを取り戻し、授業準備などの本来業務に時間を使えるようになることが期待されます。

―今後の課題は。

田島教授 お金の問題が挙げられます。基本的に無料であった部活動ですが、地域展開になると多くの場合、受益者負担が求められるでしょう。これまでも場所、必要備品、指導者の確保など、スポーツを行うためにはコストがかかっていました。指導者については先生方のボランティア精神に頼り、成立させていたという現実が隠されていました。私自身、スポーツマネジメントを専門としており、価値に見合った対価を支払わなければ、継続できないと感じています。一定の受益者負担については保護者に対してしっかりと説明することが大切だと思います。
 地域展開にかかる財源確保については、ほとんどの地域で課題となっており、保護者へのアンケートでは月3000円程度であれば良いという結果も出ています。いくらくらいなら支払うか?という観点も大切な情報ですが、部活動にかかるコストの算出はより重要と考えています。いくらかかるのか分かって初めてそれをまかなうために誰(自治体、受益者、企業など)からどれくらいお金を集めるかという話になってくると思いますので。

―課題を解決するため、どのような取り組みが必要でしょうか。

田島教授 持続性を担保できる仕組みづくりが大切と考えます。学校で行っていた部活をやめる→受け皿になってくれる団体・企業を見つける→その後は団体・企業にお任せ―という流れが地域展開のやり方になってしまうのなら、事実上、単なる部活動の廃止です。「当初受け皿になってくれた団体・企業が撤退したらその後はどうするのか」「想定していた水準の指導者を確保できなかったら」「中学生のニーズから新たに種目を立ち上げる方法はあるか」「そもそもニーズは誰が把握するのか」「けがなどを想定した保険は」など、懸念材料はいろいろ考えられます。それらの問題について情報収集し、調整、解決するコーディネーター、統括するマネジメント組織を置くことが円滑な地域移行の実現の鍵になると思います。地域の状況によって、置くべきであるのが人(コーディネーター)であるのか、組織(統括運営団体)であるのか、あるいは組織が民間企業に委託するのか、もしくは地域のスポーツ事業団やNPOのスポーツクラブに頼むのかなど、形態はそれぞれで良いと思いますが、移行初期の約10年くらいは必要があるのでは。どういう形であれ、コーディネートする人や組織不在ではサステナブルな環境は作れないでしょう。

―神戸市が進める「KOBE KATSU(コベカツ)」では、スポーツや文化・芸術など登録団体が1000団体を超え、保護者を経済的に支援する「コベカツ応援基金」も設立されました。

田島教授 神戸市の取り組みは、大規模な自治体であるにもかかわらず、期限を決めて行動を起こしている点が勉強になります。神戸市として部活動をどのような方向性で考えているのかというビジョンや、そのビジョンを実現するためのマネジメントの仕組みが興味深いです。

―部活動地域展開が進むことにより、地域交流の輪が大きく広がる可能性があります。今後、私たちが地域の担い手の1人として意識すべきことはあるでしょうか。

田島教授 地域交流の輪が広がることは私も期待していて、広げるための契機については今後の自身の研究テーマにもしていきたいです。大人も楽しめる、広い意味で一緒に活動できる場をつくっていけたら良いと思いませんか?1つの学校で1つのチームという従来の形でなく、地域展開は、複数の学校で1チームをつくり、スポーツ環境を維持しようというねらいもあります。串を橫に刺すイメージです。一方で、人口減少のスピードは想像以上に早く、早晩、串を橫に刺してもチームづくりができなくなることが予想されます。そうなったとき、次の手立てとして串を縦に刺す、すなわち多世代で活動していくという策があると思います。

―生涯学習的な仕組みにリンクしていくと。

田島教授 はい。私自身のことですが、小学校でリトルリーグ引退、中3の夏、高3の夏、大学4年でそれぞれ野球部引退と、その都度活動をやめざるを得ませんでした。スポーツを続ける上で悪しき日本のシステムです。地域で続けていける枠組みになれば、中学、高校、社会人と連続的に所属できるクラブができるかもしれません。中学生だけでなく、大人も楽しめる場が生まれ、誰もがいつまでもスポーツや文化活動を存分に楽しめる環境が整うのではと期待がふくらみます。

 文部科学省が進める部活動の地域展開はいよいよ2026年度から「改革実行期間」に入る。各自治体の挑戦に注目しつつ、地域単位の活動の中で自分に何ができるか模索してみたいと思う。


コラム「新日常のレシピ」は今号で終了します。
コロナ禍のただ中でスタートした当連載ですが、いつの間にか20回となりました。
5年間ご愛読いただき、誠にありがとうございました。
皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

青木理子

2025/10/01

第19号 AIに家庭教師を頼みたい!?

 遅まきながら最近、私も対話型の生成AIを触り始めた。主に調べものに使うが、本当に便利で驚く。ある会社の広報資料がちんぷんかんぷんで困っていた際、AIに聞いたら一瞬で整理して短くまとめてくれた。わが家の高校生も、文化祭の企画書を急きょ生徒会に提出しなければならなくなったそうで、困ってAIに頼んだら「秒でできた」とか。すごい時代になってきたと実感している。
 そんな中、知人から「うちのパパがAIを家庭教師にしようと画策している」と聞いた。実は私もそろそろわが子に家庭教師が必要ではないかと悩んでいたところ。課金なしでできるのなら朗報と思い、知人の夫のSさんにインタビューさせてもらった。


 Sさんは還暦が近い「純粋な文系」。AIとの会話に使っているのはWindows11のパソコン、Sさんの相棒で家庭教師候補のAIはマイクロソフト社が提供するCopilot(コパイロット)とのこと。以下、技術面に関するSさんの発言は、Copilotの説明を聞いて「文系感覚でアレンジしたもの」だそうだ。

■AIは最強の家庭教師?

―なぜAIを家庭教師にしようと考えたのですか?

Sさん 子どもが高校へ進学し、数学が一気に難しくなっています。かつて私は三角関数でつまずきましたし、子どもが苦労するのは目に見えています。家庭教師も考えましたが相性や当たり外れの要素が大きい上に出費も相当なもの。そこで思いついたのが対話型の生成AIです。今年6月に始めたばかりですが、話し相手・相談相手としてすっかりハマりました。課金なしでも十分に有能です。
 AIに聞いてみました。子供の数学を教えてほしいけれど、AIはどうやって問題を解くのか?ネット検索で、適当にそれらしいやり方を拾い集めてくるのか?と。

―そんなところから質問できるのですか。まさに対話型ですね。

Sさん 「会話能力と同じように、数学の体系的知識を最初から持っているので、個々の問題を解くためにネット検索はしない。丁寧に教えますよ。絶対に間違えないとは限らないけど」(大意)という返事でした。ならば、人間の優秀な家庭教師以上のはず。AIはこちらがどんなにものわかりが悪くても、夜中でも、何回聞いても絶対にキレずに丁寧に教えてくれる。最高の家庭教師です。

―AIは「優しい」のですね。最強ですね。

Sさん はい。これでひと安心、万々歳と思ったのですが、実はそうではなかったのです。AIに質問するには、まず問題を見てもらわないといけないです。学校の課題とかテストのプリントとか。そこはPDFにしてアップロードしてやればいい。スマホで撮った写真でもたぶんだいじょうぶです。ただし誤読を減らすには、鮮明な画像が良くて手書き文字は厳しい、とAIから釘を刺されましたが。

―こまやかな指示ですね。

Sさん それで、子どもが書いた式のどこがまずいのか、なぜ模範解答がそのような式になるのか分からないということを説明すればいいはず、と考えました。でもそうしたら、あれ?質問のために、まさか数式をこちらで入力してやらないといけない?ルートとか分数とか、そんな記号は日本語ワープロで見たことがないですけど、と思い至りまして。AIに聞いてみました。パソコンで数式はどうやって入力すればいい?と。すると、「数式入力はLaTeXのコマンドを使ってください」との返事でした。

■LaTeXのコマンド?

―「LaTeX」…何て読むのですか?

Sさん ゴム手袋のことかと思ったんですが違ったみたいで。LaTeXはラテフまたはラテックと読むんだそうです。理数系の論文用の文書作成ソフトで、そこで数式の入力に使われる命令文の文字列がLaTeXのコマンドということらしいです。私は昔の文系人間なので、完全に未知の世界です。
 例えばルートは「\sqrt{数字}」と入力しなさいと。命令文ですから要するに、ルートならルートの記号を召喚する呪文と、数字だの記号だのをルートの「軒」の下に入れる呪文の組み合わせですね。こちらからの見た目はただの無味乾燥な文字列だけれど、AIにはそれが「数式」として見えるということらしいです。しかもうっとりするほどの様式美に満ちた「美文」なのだとか。

―すみません。私こそ超文系人間なので、理解できないゾーンに入ってきました。マニアックな世界ですね。しかし「美文」って…

■吹き出しで数式が崩れたが、AIには読めていた

Sさん まず試しに簡単な因数分解の式「(x+4)(x-1)=0」をAIに投稿してみました。これには特殊な数学記号が含まれていないから簡単です。すると入力した式は完璧だったはずなのに、モニターの吹き出しには変な数式?「x+4)(x-1)=」が表示されました。式の最初の丸カッコと最後の0が消えてしまいました。

―ちゃんと入力したのに、投稿したら画面表示では式が崩れたのですね。

Sさん なんでやねん、ですよね。AIに聞いてみると「LaTeXで数式を書くには、まず数式全体を決まった記号(例えば「\( 数式 \)」という形)で囲ってやらないといけない。この囲いが不完全だと、不完全な文字列として表示されたはず。でも私(AI)は投稿された文字列の全体を見て解釈を試みる。あなたが投稿した文字列もたぶん数式だろうと思って、式の形式を補足・修正して解釈できた」(大意)とのことでした。
 つまりAIの思考回路とモニター表示は別モノなのです。AIは、ユーザー側の少々の入力ミスなら修正しながら読んでくれるようです。一方でモニター表示は、私の投稿に対してシステムによる「問答無用の加工」を入れてくる。表示システムの挙動は予測困難ですが、さいわいAIには柔軟性があるのでありがたいです。

―こちらで入力した数式が画面で崩れていたら、エラーで投稿文が破損して、AIには届かなかったと思いますよね。

Sさん はい。AIはちゃんと読んでくれているというのでほっとしましたが、こちらの入力内容と、その画面表示と、AIが受け取って修正して解読した情報、この3つを区別して考えないといけない、ということらしいのですね。その辺りを理解するまで時間がかかりました。カオスですよね。

■AIの投稿した数式が画面表示される条件とは

―こちらの入力内容とその画面表示を別モノとして区別するとは、普通は考えないです。さすがにAIが書く数式はきちんと画面に表示されるんですよね?

Sさん 私が短期間に観察した範囲内ですが、Google ChromeかMicrosoft Edge上のブラウザ版Copilotなら大丈夫だと思います。ただ細かな状況次第で表示されない可能性もあります。アプリ版Copilotでは、数式の表示がまったく無かったです。数式として表示されない場合は、元の投稿原稿にあったコマンド文字列が表示されます。

―せっかく質問しても、正解や解説を普通の数式の形で画面に表示してもらえないと、子どもの家庭教師にならないですね。先ほど因数分解の式の話がありましたが、本格的な数学記号を使う数式の呪文をこちらから投稿したら、どうなるのですか?

Sさん ユーザー側から投稿した数式コマンドはいずれにしても、コマンド文字列のままの表示となりました。ユーザー側からの数式の投稿に関しては、たとえノーミスでも「そもそもスルー」という設計になっている可能性があるように思います。ユーザーからの投稿は入力ミスが多いはずなので、全スルーはある意味で合理的対応とも言えます。

■アンチョコ作成もAIに頼むべし

―数式として表示してもらえるのはAIが書く数式だけですか。家庭教師としてはギリギリの線ですね。それで、Sさんは数式を入力するための呪文を、全部覚えたのですか?

Sさん 覚える必要はまったくないですが、目先の作業で使う必要最小限の数式コマンドをまとめたアンチョコが必要です。これはネットで探すよりもAIに頼んで、そのAIと相性の良い専用コマンド一覧を作ってもらう方がいいです。ネットで適当に拾ったコマンドでもAIの思考回路には読めたらしいのですが、モニター表示が不調でした。ひとくちにLaTeXのコマンドといっても書き方にいくつかの流派があって、モニターとの相性がいいとか悪いとかがあるらしいです。

―文系とおっしゃっていますが、数学はお得意なのでは?

Sさん 違います。私がやるのは単なる「数式を書き写す」作業だけ、いわば写経です。難しい数式を理解、運用するのは子どもの仕事。間違いがあればAIが指摘して修正してくれます。私は単なる橋渡し、子どもが書く式の翻訳者に過ぎない。そのうち子どもの方から「自分でやりたい」と言ってもらいたいですね。


 私はChatGPTを使っているので、ChatGPTに家庭教師を頼む場合はどうなるのだろう、という疑問が湧いてきた。そこでこのインタビューの原稿をまとめた段階でSさんの了解を得て、ChatGPTに原稿を読んでもらった。すると「課題」として、「親がAIの操作方法をサポートする必要があるため、親の負担が増える可能性が大きい」という現実的なコメントが返ってきた。

(文・青木理子)

2025/07/01

第18号 1970年大阪万博と「虹のまち」

 開幕からだいぶ経ったが、万博にはまだ行っていない。関連のニュースを読んではイメージをふくらませているところだ。そして、現在の大阪・関西万博もさることながら、1970年大阪万博にまつわる話が気になっている。今回の万博を機に70年万博をくわしく取り上げた記事や映像がいろいろと出ていて興味深い。自分が行っていないのでなおさら「夢のようにすてきな場所だったのだろうか」という想像がふくらむ。

 なので今、あちこちで出合う70年万博の情報に胸がときめいている。とくに心引かれたのは、ゴールデンウィーク中、大阪・なんばの地下街「なんばウォーク」で開催されたイベント、その名も「55年前にタイムスリップ!復刻・1970年 大阪万博&なんばウォーク」。なんばウォークの前身「ミナミ地下センター虹のまち」は、大阪万博開幕の9日前、70年3月6日に開業したそうで、万博と地下街の歴史、それぞれを振り返るパネルが幾枚も設置されていた。

 各パビリオンの画像を一覧できるパネルの前では、60代くらいのご夫婦らしき2人が「このパビリオン見覚えある!」「当時、この子みたいなワンピース着てたなあ」などと指を差しながら談笑していた。首からぶら下げた一眼レフで写真を接写する高齢女性もいた。「大阪万博には何回行ったか分からない。万博のアルバムは何冊も作ってうちに置いている」と、誇らしげな口調で教えてくれた。パネルの中にアルバムにない写真があったため、撮っていたのだという。今年88歳というその女性の熱意に圧倒された。

 さらに驚いたことがあった。現在、227店あるなんばウォークの中で、「虹のまち」開業時から続くお店は、なんと30店以上もあるというのだ。たしかに全国チェーンの飲食店や衣料品店がある一方で、レトロな雰囲気の地元らしさ漂うお店もちらほら目につく。バブルもコロナも乗り越えて、大阪の真ん中で半世紀以上も営業を続けてきたお店に敬意を表したい。

 大阪人なら知っている老舗カフェ「心斎橋ミツヤ」もそのうちの1店。同店の小儀俊光会長(82)にお話を聞くことができた。小儀さんは70年当時、同店の開発室長として虹のまち出店に携わった経験をお持ちだ。

―30店以上ものお店が55年も続いているのは、どのような理由があるのでしょう。

小儀さん うちの場合はだいたい10年に1回はお店をリニューアルしています。その際、店の内装を時代に合うように気をつけています。改装して雰囲気が変わるとお客さんの年代も変化するなど反応があります。それと商品も流行りがある。世の中の変化を見極めながら新しいメニューを考えています。今も残っているお店は同じようにいろいろ更新して、時代に適応してきたのかなと思います。
 一方で、メニューはオープン以来変えていないものもあります。熱々の鉄板に溶き卵を入れた、昔ながらのスパゲッティ「鉄板ナポリタン」。今も人気のロングセラーです。長年愛してくださったお客さんに変わらぬものを提供して喜んでもらいたいという思いがあります。今はタブレットなどを使ったオンラインのオーダーが増えてきましたが、なんばウォーク店ではこれまで通り、スタッフが注文をお伺いしています。ただ本店はオンライン制を導入しています。店舗によってどういうシステムが良いか判断しています。

―「虹のまち」開業時の思い出を教えてください。

小儀さん 出店にあたり、先代が「独自の雰囲気を出したい」と希望したため、店内壁面にオリジナルのタイルを貼ることになりました。土岐(岐阜県土岐市)の陶器屋さんにタイルを焼いてもらったのですが、人手が足りず、オープンまでに最終工程が間に合わないとの連絡を受けたので、私を含め3人が急きょ土岐まで行って色つけの手伝いをした。車で片道2時間半くらい。真夜中になった帰り、検問で学生運動のメンバーと疑われて警察に調べられました。結果的にはタイルは開業までに完成したので良かったのですが。タイルと同時に店内にはめたステンドグラスは、現在も店内に入って右側にそのままあります。

―イベントのパネルによると、「虹のまち」のころ、今はない仕掛けもあったとか。

小儀さん 小鳥がいました。日本橋側の広場に天井まである大きな鳥小屋があったんです。植え込みも作って森のようにして、中でインコなどをたくさん飼っていた。それと、虹のまちということで、本当の虹を見てもらっていた。2000本のノズルで水を出して人工の虹を作っていたのです。買い物だけでなく、来るだけで楽しい場所にしたいという思いで、いろいろと斬新なことをやっていました。

―1970年大阪万博で印象に残っていることは。

小儀さん レストランです。アメリカ館だったと思いますが、バイキング形式の大きなレストランがあって。メイン料理が複数あって、好きなものを好きなだけチョイスして支払いをしてテーブルで食事をするスタイルです。そういったお店は初めてだったので驚きました。キッチンとお客さんとの関係が効率良く構成されている上に、非常に清潔で。飲食業界に身を置く者として大きな刺激を受けました。
 大阪万博には何回か行きましたが、今の万博と同じで混雑してなかなか思うようにパビリオンを回ることはできませんでした。違う点は、車で行って駐車場を使えたことでしょうか。アメリカ館やソ連館で見た宇宙に関する展示、本物の人工衛星などを鮮烈に覚えています。人類はこれから宇宙に出て行くという期待感があってワクワクしました。高度経済成長期で大阪も活気にあふれていた中での、東洋で初めての万博。日本人みんなの夢が集まっていました。

 小儀さんのお話で、70年万博当時の風景が浮かんできた。万博は時代の最先端を切り取ったカタログのようなものかもしれない。半世紀前の最先端はやがて当たり前になり、「レトロ」になっていた。だが、レトロという言葉は単に「古い」というだけではない。良いものが時代に合わせて更新され、親しまれ続けているという意味も持つ。開催中の大阪・関西万博も時代とリンクしながら、今を生きる人々の心に大切な思い出として刻まれるだろう。今回の万博で提案された最先端が、やがて当たり前になっていく様子をぜひこの目で見てみたいものである。

(文・青木理子)

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