生協知っトク情報

2024/07/01

第14号 もっと気軽にスパイスを
インドを旅した「伝道師」おすすめの活用法

 実家の台所の片隅にスパイスラックがある。ずっと前から、おそらく昭和からある。スパイスの小瓶10数種類と専用の小さな木製棚のセットで、たしかお中元かお歳暮の到来品だ。ラックは当時のまま、スパイスもいくつか手つかずのまま炊飯器の横でホコリをかぶっている。
 子どもの頃、ラックをのぞき込むたびに「大人になったらこのかわいい小瓶をしょっちゅう使ってお料理しよう!」と、ワクワクしていた。だが残念なことに、年月は私をスパイス売り場を通り過ぎて、合わせ調味料コーナーに直行する大人に変えた。
 そんな私が最近、「スパイスの伝道師」を紹介してもらう機会に恵まれた。  大阪市内でスパイスカレー店「HOKUToo(ホクトゥー)」を営む北東桃子さんである。
 北東さんは元パティシエ。インド風カフェでケーキ作りを担当していたころ、調理場でカレーの調理工程を見て、スパイスの奥深さに魅了されたという。自らもカレーを研究するようになり、熱が高じて単身インドへ。ひと月ほど本場で“修行”した経験を持つ。
 「日常の小さな幸せをスパイスを通して提供したい」という北東さんに、インドの旅やスパイスにまつわる話を聞かせてもらった。


 私のスパイスとの出合いは、先輩が色とりどりの粉(スパイス)を使ってカレーを作っている様子を間近で見ていたことです。スパイスだけでこれほどまでに香り豊かな表現ができるのかと感動しました。自然とメモを取り、家でカレーを作るようになりました。スパイスを使った調理はとても面白く、どんどんはまっていきました。
 ある時、1日限定のカフェイベントを開催する機会があり、そこで手作りのスパイスカレーを出してみました。そうしたら、初対面のお客さんから「今、大金があったら何をしたいですか?」と話し掛けられて。とっさに「スパイスの本場、インドに行ってみたいです」と答えたところ、その人がクラウドファンディングに関係する仕事の人で「じゃあ、クラファンを募ってみようか」と話が進み、資金が集まったのです。知り合いにインド在住の日本人女性を紹介してもらい、その方のお宅を拠点に滞在できることになりました。

 首都デリーにあるお宅に寝泊まりさせてもらいながら、ムンバイやパキスタン側の地域、小さな村にも足を運びました。 インドの電車はランクがあって、最上位だと日本の電車のように座れてクーラーが効いていて、快適。最下位だとすし詰めで、電車の上にも人が乗っている―よくインドに関係するニュースで流れる映像のような状態です。それだとあんまりなので、下から2番目の電車に乗っていました。下から2番目でもかなりの衝撃体験でしたが。
 インドではいろいろなカレーをたくさん食べました。現地では「食事=カレー」なので、カレーを食べていても「カレーを食べています」という言い方はせず、「ごはんを食べています」になります。店や地域、家庭によって入れる具も異なり、バラエティーに富んだアレンジとなっていて、まったく一緒のカレーはなかったことが印象的でした。
 そして、同じくらい印象深かったのはチャイ(スパイスを入れて甘く煮出したミルクティー)です。現地のチャイ屋さんは予想以上に多く、屋台の店もあって、日本のコンビニ…いえ、電柱以上に数があるのではと思うくらいでした。とはいえインドの人は1日数回チャイを楽しむので、店の多さも納得なのです。朝食、休憩がてら、誰かと話す時、都度チャイを飲む。チャイはコミュニケーションツールになっていて、チャイを味わう時間そのものが大事にされています。そして、その味にも驚きました。日本で飲んでいたものと全然違い、濃厚で深いコクがあり、あのおいしさは忘れられません。

 帰国してから、本場のスパイスやチャイの味を多くの人に知ってほしいと考え、この春にお店を開きました。日本でもカレーが好きな人は多いですが、辛いのが苦手な人も少なくありません。そこで、お店で出すカレーは添加物に頼らず、カレーの具材に合わせてスパイス自体を調味料として調合したり、辛いチリペッパーの比率を下げてほかのスパイスを多く使い、極端に辛くならないよう仕上げています。たくさんあるスパイスのうち、辛いのはチリペッパーやブラックペッパーなど限られています。スパイス自体に味はなく、油と合わせることでカレーの風味が変わります。辛さを抑えてうまみを出すには、少々手間が掛かりますが玉ねぎなどの野菜をじっくり炒めてスパイスと合わせ、トロトロのうまみを出す方法があります。日本人になじみがある「欧風カレー」に近い味です。「それほど辛くないのにスパイスを感じるカレー」を目標としています。

 最近では、スーパーに置いてあるスパイスの種類が驚くほど増えました。 いろいろ買いそろえてチャレンジするのも良いですが、張り切りすぎて1回使って終わり、という話もしばしば耳にします。おうちで取り組むなら、もっと気軽に、野菜炒めの中にちょっとクミンを入れてみる、くらいがまずは良いかもしれません。クミンはとくになすび炒めに合います。
 手軽ということで言うと、家庭で作るカレーを簡単に「スパイスカレー」に変身させる方法があります。手順は以下です。

  • ①市販のカレールー(だいたい標準的な量のもの1箱分)を利用し、野菜や肉など好みの具を入れて鍋でカレーを作る。レトルトカレーをパウチから出して鍋に入れて温めてもOK。
  • ②鍋とは別に小さめのフライパンに50ccくらい油を入れて温める。油が温まってきたらガラムマサラ15グラムを入れる。
  • ③ガラムマサラが焦げないよう気を付けながら熱し続け、香りが立ってきたら、①にかけてなじませる。

 これでスパイスが香り立つおいしいカレーができあがります。スパイス自体が油に溶ける性質があるので、油にスパイスを入れてなじませると、カレールーにスパイスの香りが出てくるのです。

 そのほか食べもの以外でも、グローブはゴキブリよけになりますし、スパイスの一種であるハーブのミントも虫よけ効果があります。私の父は外で作業する際、蚊が近寄らないようにと帽子のつばにミントの葉をぶら下げています。ナチュラルな虫よけ、おすすめです。


 お話を聞いた後、北東さんが作ったチキンカレーを味見させてもらった。どの香りが何のスパイスか分からないため専門的な表現はできないが、複数の香辛料が絶妙にミックスされた、奥行きのある味。ゆっくり味わおうと思いながらも、スプーンが止まらない。そして食後、風邪による喉の痛みがかなり軽減されていた。スパイスのパワー、恐るべし。

(文・青木理子)

2024/04/01

第13号 正常性バイアスを解き放つものは

 幼児期の強烈な思い出の1つに「幼稚園での避難訓練」がある。「本当の火事が起きたと思って、ベルが鳴ったら何も持たずに庭に逃げてね」と事前に言われていたが、同じ組の女の子は、いったん外に出た後、部屋に引き返して自分のハーモニカを取ってきた。すると、ふだんは優しい年配の先生が「なんで取りに帰ったの。本当の火事だったら、〇ちゃん焼け死んでたよ!」と女の子を怒鳴りつけた。その剣幕に女の子は真っ青になって地面にへたり込んだ。当時4歳だった私は、先生の激しい怒声と「焼け死ぬ」というワードが恐ろしく、「訓練なのにどうしてそこまで厳しく言うのかな」と女の子に同情的な気持ちも持った。だがその一件で、「一刻を争う時は、モノに執着していたら命取りになる」ということを叩き込まれた。その場にいた数十人の園児全員が同様だったと思う。大人になって思い返すと、命を大切にしてほしいという、先生の深い愛情だったと実感する。

 今年の元日に発生した能登半島地震で、NHKアナウンサーが強い口調で避難を呼び掛ける映像を見て、幼稚園の先生を思い出した。いつもは穏やかな女性アナウンサーが「今すぐ逃げること!」と気迫に満ちた声で伝え、SNSでは地震情報とともに「NHKアナウンサー」がトレンド入りした。後日、それら断定調の呼び掛けが、2011年の東日本大震災後、NHKの全国のアナウンサーの意見を基に作られたものであることを知った。
 同局のアナウンサーへのインタビュー記事によると、東日本大震災でも、「安全な高台に逃げてください」「海に近づかないでください」とくり返し呼び掛けたが、強いトーンではなく冷静な口調だったといい、アナウンサーの1人は「避難を呼び掛けてもなかなか届かなかった」と振り返っていた。NHKでは災害報道の訓練を重ねているそうで、元日に流れた「テレビを見ないで逃げてください」という言葉も訓練から生まれた言い回しだったという。

 奈良大学(奈良市)の村上史朗教授(社会心理学)は、能登半島地震時のNHKアナウンサーの口調について「非日常的なことが起きているということがよく伝わってきた」と高く評価する。村上教授によると、災害が発生するとパニックが起きると思われがちだが、実際はそうでもなく、むしろ「これまで起きなかった災害はこれからも起きないだろう」と感じてしまう「正常性バイアス」がはたらき、避難しないケースが多いことの方が問題という。東日本大震災の前年に起きたチリ地震の際、避難指示や勧告が出た地域の住民の避難率はわずか3.8パーセントだったそうだ。
 村上教授は、「日常、私たちは周囲のあらゆる情報の大部分を予測の範囲内で捉え、処理している。この予測ができるから、私たちは日々混乱せずに生活できている。正常性バイアスは人間の適応的な機能の副作用といえる」とひもとく。

 誰の心の中にもある正常性バイアス。いざという時に解き放つコツはあるのだろうか。村上教授は「非日常の場面で『でもまだだいじょうぶ』との思考になったら、『そういえば、正常性バイアスという感じ方があったな』と思い浮かべてほしい」と話す。「よく言われることですが、逃げて何もなければ笑い話で済むだけ。逃げない選択によってけがをしたり、命を落とす想像を積極的にはたらかせてほしい」(同教授)。
 また、逃げ遅れが発生するのは、1人の時よりも集団の中にいる場合の方が多いとの研究結果もあるという。村上教授は「大勢でいる時の方が正常性バイアスから抜け出すのは難しい。お互いに出方をうかがううちに、時間が経つ傾向もある」と指摘。「集団の中にいても正常性バイアスについて思い出してほしい。そして、避難を指示すべき立場の人、たとえば商業施設の放送担当の人などは、ふだんの口調ではなく、NHKのように感情に訴える呼び掛けをしても良いのでは」と提案する。

 人の感情にダイレクトに響き、強く判断を促すのは、何よりも、思いがこもった人の声ではないだろうか。AIアナウンサーが入れない領域は確実にある。

(文・青木理子)

2024/01/05

第12号 プロに聞いた フライパンの奥義

 2024年になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 昨年、気になった話題の一つに「食品メーカーによるフライパンの回収」があった。味の素冷凍食品の冷凍ギョーザを買った人が「皮がフライパンに張り付く」とSNSに投稿したのがきっかけ。それを見た同社が「フライパンの状態を確認して研究開発に役立てたい」と、使い込んだフライパンを着払いで送付してほしいと広く呼び掛けた件である(受付は終了)。結果、全国から3千個以上が集まったそうで、新聞記事には「フライパンの大半はフッ素樹脂加工。中には10年以上使用されたものもあり、多くは加工がはがれていた」との担当者のコメントが載っていた。

 それを読んで私はドキッとした。わが家にある4枚のフライパンのうち、1枚は10年近く使っていたからだ。炒め物をすると焦げるため、実際の出番はほとんどないものの、愛着を感じてなんとなく捨てられないでいた。
 思い切って新しいのを買おうとホームセンターのフライパン売り場に行ってみた。すると、多種多様としか言いようがない、数十種類のフライパンが所狭しと吊り下げられているではないか。見れば見るほど何を選んだら良いか分からなくなり、結局手ぶらで帰宅した。

 そこで今回は、キッチン・アウトドア用品メーカー「パール金属」(新潟県三条市)の開発担当、小柳隆章さんにフライパンの選び方についてアドバイスしていただいた。


―フライパンを選ぶ際、どのような点について気を付けたら良いでしょうか。

小柳さん 自宅のコンロがガスかIHか。そこがスタートです。IHではガス火専用のフライパンは使えません。「両方兼用」とされている商品もありますが、それらはIHに反応させるためにフライパンに異なる素材を貼り付けたものです。もしそれぞれの専用の商品が選べるようでしたら、できるだけ専用の方を選んでください。そのほうが効率良く調理できます。

―驚くほどさまざまな種類の商品があります。売れているものは。

小柳さん フライパンの素材としてはアルミ、昔ながらの鉄、ステンレスがあります。そのうち一般的に購入されているもののほとんどは、表面にフッ素加工を施したアルミ製です。加工の種類は、フッ素の強度を上げてこびりつきにくくした商品「マーブルコート」「ダイヤモンドコート」など多岐にわたります。JIS(日本産業規格)では、フッ素加工品は、金属ヘラを3000回使ってはげてこなければ基準をクリアしたことになります。弊社では、100万回こすってもだいじょうぶな「メガストーン」という商品もあります。ただ基本的にどのフッ素加工品も使い始めた当初はくっつきにくい。商品による差異は、使い続けた場合の耐久性です。

―それでは、フッ素加工されたフライパンで、ある程度耐久性のあるものを選べば良いということでしょうか。

小柳さん 安価なフライパンは薄い場合が多いですが、「軽くて持ちやすい」「洗いやすくて素晴らしい」という判断もあります。薄いフライパンのメリットの一つが軽さであることは間違いないです。一方で、ホットケーキなどを焼く場合は、ある程度厚みがあるものが適しています。厚みがあるとやんわりとした熱が全体に行き渡り、安定した熱伝導によってきれいに焼き上がります。もともとアルミのフライパンは中火以下で使うものとされています。その通りに使っていればフライパンが傷みにくく、長持ちします。ある程度厚みがあり、塗料がしっかりしたもの、2000~3000円くらいの商品を選んでいただけたら良いのではと思います。

―味の素冷凍食品が回収したフライパンの中には、長期間使い込まれたものもあったようです。表面のフッ素の寿命は大体どれくらいなのでしょうか。

小柳さん 商品の種類や使う頻度にもよりますが、一つの目安としておよそ3カ月くらいでしょうか。ほとんどの場合、寿命よりも長く使い込まれていると感じます。弊社では、一般的な強度の商品は、外側の色を明るめにして汚れや傷が目立ちやすいようにしています。内面の劣化だけでなく、外側でも劣化を感じて買い換えてもらうことが目的です。逆に強度が高いものは長持ちすると想定されるので、外側は暗めの色にしている場合が多いです。

―実は私もフッ素がほとんどないと思われる古いフライパンを使っています。調理中に料理に入り込んだフッ素を食べた場合、体に影響はあるのでしょうか。

小柳さん フッ素は体内に入っても吸収されず、そのまま出てくるので、体に害はありません。

―フライパンを長持ちさせるコツはありますか。

小柳さん 商品説明に「金属ヘラOK」と書いてあったとしても、ナイロンなどの柔らかいヘラを使った方が傷がつきにくいです。強火にしない、中火以下を守ることもポイントです。お手入れとしては、フライパンが冷めてから、中性洗剤を含ませた柔らかいスポンジで洗うのが基本。焦げたところをガリガリこすらず、水を少量入れて火にかけて沸騰させ、自然に焦げを浮かせて、その後やさしく洗うと良いです。

―そういえば、鉄のフライパンを使い慣れている母にフッ素加工のフライパンをプレゼントしたら、洗った後、鉄フライパンの手入れの要領で、強火で乾かしていたために、あっという間に表面のフッ素がはがれたようです。

小柳さん フッ素加工品と鉄は扱い方がまったく違うので、注意が必要です。商品の説明書をよく読んでお手入れしてください。

―3つだけフライパンを持つとしたら、どんなものがおすすめでしょうか。

小柳さん 家族の人数などにもよりますが、1枚は標準サイズである直径26~28センチサイズのもの。少し大きめの28センチだと材料が外側にはみ出さず、フライパンの周囲が汚れにくいというメリットがあります。
 2つ目でおすすめしたいのは高さが8センチくらいの深いフライパンです。ちなみに一般的な深さは5.5センチくらい。深いと材料を混ぜやすい上、焼くだけでなく、煮たり茹でたりもできます。とりわけパスタを茹でるのにおすすめです。上部が底面よりも大きく開いている形状なので湯の泡が細かくなり、差し水が必要なく、手軽に茹でられます。ほかにも、深めのフライパンを1枚持っていたら何でもできるので、揃えておくと良いと思います。
 3枚目は小さいフライパン。直径16~22センチくらいでしょうか。IHの場合、直径16センチ以上でないとコンロが反応しません。1人暮らしの方はもちろんですが、食事は少量と決めているご家庭にも適しています。小さいので持ちやすく、洗う手間も減らせます。

―ライフスタイルに合ったフライパンを選び、正しい使い方や手入れ方法を守って長く使うことが理想的ですね。

小柳さん 良い状態のフライパンを長く使うことでSDGsにつながります。それとともに、調理後の油の処理にも気を付けたいものです。フライパンに残った油はキッチンペーパーなどで可能な限り拭き取って、その後水洗いしてください。できるだけ下水道に油が流れないように気を付けていただけたらと思います。

―ありがとうございました。


 その後、円形のフライパンのみならず、卵焼き器も買い換えた。すると、高校生の長女に「今日の卵焼き、本当にママが作ったの?お店のでは?」という最高評価の褒め言葉をもらった。作り方は一切変えていなかったのに。
 単純な私は、現在、料理したいというテンションが数(十数?)年ぶりにアップしている。

(文・青木理子)

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