- 2024/01/05
第12号 プロに聞いた フライパンの奥義
2024年になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
昨年、気になった話題の一つに「食品メーカーによるフライパンの回収」があった。味の素冷凍食品の冷凍ギョーザを買った人が「皮がフライパンに張り付く」とSNSに投稿したのがきっかけ。それを見た同社が「フライパンの状態を確認して研究開発に役立てたい」と、使い込んだフライパンを着払いで送付してほしいと広く呼び掛けた件である(受付は終了)。結果、全国から3千個以上が集まったそうで、新聞記事には「フライパンの大半はフッ素樹脂加工。中には10年以上使用されたものもあり、多くは加工がはがれていた」との担当者のコメントが載っていた。
それを読んで私はドキッとした。わが家にある4枚のフライパンのうち、1枚は10年近く使っていたからだ。炒め物をすると焦げるため、実際の出番はほとんどないものの、愛着を感じてなんとなく捨てられないでいた。
思い切って新しいのを買おうとホームセンターのフライパン売り場に行ってみた。すると、多種多様としか言いようがない、数十種類のフライパンが所狭しと吊り下げられているではないか。見れば見るほど何を選んだら良いか分からなくなり、結局手ぶらで帰宅した。
そこで今回は、キッチン・アウトドア用品メーカー「パール金属」(新潟県三条市)の開発担当、小柳隆章さんにフライパンの選び方についてアドバイスしていただいた。
―フライパンを選ぶ際、どのような点について気を付けたら良いでしょうか。
小柳さん 自宅のコンロがガスかIHか。そこがスタートです。IHではガス火専用のフライパンは使えません。「両方兼用」とされている商品もありますが、それらはIHに反応させるためにフライパンに異なる素材を貼り付けたものです。もしそれぞれの専用の商品が選べるようでしたら、できるだけ専用の方を選んでください。そのほうが効率良く調理できます。
―驚くほどさまざまな種類の商品があります。売れているものは。
小柳さん フライパンの素材としてはアルミ、昔ながらの鉄、ステンレスがあります。そのうち一般的に購入されているもののほとんどは、表面にフッ素加工を施したアルミ製です。加工の種類は、フッ素の強度を上げてこびりつきにくくした商品「マーブルコート」「ダイヤモンドコート」など多岐にわたります。JIS(日本産業規格)では、フッ素加工品は、金属ヘラを3000回使ってはげてこなければ基準をクリアしたことになります。弊社では、100万回こすってもだいじょうぶな「メガストーン」という商品もあります。ただ基本的にどのフッ素加工品も使い始めた当初はくっつきにくい。商品による差異は、使い続けた場合の耐久性です。
―それでは、フッ素加工されたフライパンで、ある程度耐久性のあるものを選べば良いということでしょうか。
小柳さん 安価なフライパンは薄い場合が多いですが、「軽くて持ちやすい」「洗いやすくて素晴らしい」という判断もあります。薄いフライパンのメリットの一つが軽さであることは間違いないです。一方で、ホットケーキなどを焼く場合は、ある程度厚みがあるものが適しています。厚みがあるとやんわりとした熱が全体に行き渡り、安定した熱伝導によってきれいに焼き上がります。もともとアルミのフライパンは中火以下で使うものとされています。その通りに使っていればフライパンが傷みにくく、長持ちします。ある程度厚みがあり、塗料がしっかりしたもの、2000~3000円くらいの商品を選んでいただけたら良いのではと思います。
―味の素冷凍食品が回収したフライパンの中には、長期間使い込まれたものもあったようです。表面のフッ素の寿命は大体どれくらいなのでしょうか。
小柳さん 商品の種類や使う頻度にもよりますが、一つの目安としておよそ3カ月くらいでしょうか。ほとんどの場合、寿命よりも長く使い込まれていると感じます。弊社では、一般的な強度の商品は、外側の色を明るめにして汚れや傷が目立ちやすいようにしています。内面の劣化だけでなく、外側でも劣化を感じて買い換えてもらうことが目的です。逆に強度が高いものは長持ちすると想定されるので、外側は暗めの色にしている場合が多いです。
―実は私もフッ素がほとんどないと思われる古いフライパンを使っています。調理中に料理に入り込んだフッ素を食べた場合、体に影響はあるのでしょうか。
小柳さん フッ素は体内に入っても吸収されず、そのまま出てくるので、体に害はありません。
―フライパンを長持ちさせるコツはありますか。
小柳さん 商品説明に「金属ヘラOK」と書いてあったとしても、ナイロンなどの柔らかいヘラを使った方が傷がつきにくいです。強火にしない、中火以下を守ることもポイントです。お手入れとしては、フライパンが冷めてから、中性洗剤を含ませた柔らかいスポンジで洗うのが基本。焦げたところをガリガリこすらず、水を少量入れて火にかけて沸騰させ、自然に焦げを浮かせて、その後やさしく洗うと良いです。
―そういえば、鉄のフライパンを使い慣れている母にフッ素加工のフライパンをプレゼントしたら、洗った後、鉄フライパンの手入れの要領で、強火で乾かしていたために、あっという間に表面のフッ素がはがれたようです。
小柳さん フッ素加工品と鉄は扱い方がまったく違うので、注意が必要です。商品の説明書をよく読んでお手入れしてください。
―3つだけフライパンを持つとしたら、どんなものがおすすめでしょうか。
小柳さん 家族の人数などにもよりますが、1枚は標準サイズである直径26~28センチサイズのもの。少し大きめの28センチだと材料が外側にはみ出さず、フライパンの周囲が汚れにくいというメリットがあります。
2つ目でおすすめしたいのは高さが8センチくらいの深いフライパンです。ちなみに一般的な深さは5.5センチくらい。深いと材料を混ぜやすい上、焼くだけでなく、煮たり茹でたりもできます。とりわけパスタを茹でるのにおすすめです。上部が底面よりも大きく開いている形状なので湯の泡が細かくなり、差し水が必要なく、手軽に茹でられます。ほかにも、深めのフライパンを1枚持っていたら何でもできるので、揃えておくと良いと思います。
3枚目は小さいフライパン。直径16~22センチくらいでしょうか。IHの場合、直径16センチ以上でないとコンロが反応しません。1人暮らしの方はもちろんですが、食事は少量と決めているご家庭にも適しています。小さいので持ちやすく、洗う手間も減らせます。
―ライフスタイルに合ったフライパンを選び、正しい使い方や手入れ方法を守って長く使うことが理想的ですね。
小柳さん 良い状態のフライパンを長く使うことでSDGsにつながります。それとともに、調理後の油の処理にも気を付けたいものです。フライパンに残った油はキッチンペーパーなどで可能な限り拭き取って、その後水洗いしてください。できるだけ下水道に油が流れないように気を付けていただけたらと思います。
―ありがとうございました。
その後、円形のフライパンのみならず、卵焼き器も買い換えた。すると、高校生の長女に「今日の卵焼き、本当にママが作ったの?お店のでは?」という最高評価の褒め言葉をもらった。作り方は一切変えていなかったのに。
単純な私は、現在、料理したいというテンションが数(十数?)年ぶりにアップしている。
(文・青木理子)